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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
目次

ここのつめ


「ふふ」

Sは後ろで笑う声が聞こえ、きょとんとするとハンナはそれに謝った後にまた思い出し笑いをした。
小さな少女は、目の前のこの人に憧れ、彼女からのプレゼントを大事に未だに身に着けている。何と可愛らしいことなのだろうか。

「どうしましたハンナ」

「Sは先日ここに来た女の子を覚えていますか?」

「…ええ、赤毛が似合う少女ですね。」

「はい、ナナって言うんです。その子がとってもSのことが大好きで、毎日あなたにもらったチョコについていたリボンを大事に見つめるから可愛くって」

それにSは目を見開いて驚くと、やがて照れ臭いのか目をそらし耳の横の髪を指に絡めた。その珍しいSの反応に、ハンナは紅茶を入れながら少しだけ驚くと彼女がまだ幼かった時のことを思い出す。

今でこそ、冷たさの中でも穏やかな印象を持つ彼女であるが、ここに来たばかりの時はそれは手の付けられない針山のような性格だった。

それもこれも、彼女の脆さと若さから来たものだったと今思えばそうなのだとわかるが。人を寄せ付けない雰囲気を放っていたことを未だに忘れはしない。

「あなたが人間らしくなってホッとしたわ、アリー」

昔のように話しかけるとSha目をぱちぱちとした後にまた指先がさ迷うように髪に巻き付いた。

「昔は人間らしくなかったですか?」

「ふふ、どうだったかしら」

くすくす、と笑ったハンナにSは少し拗ねた顔をしてから紅茶を口に運ぶ。

「もうじき任期を終えて、日本に戻りますがまた依頼があれば帰ってきます」

パソコンの方へ向いた彼女と目は決して合わなかった。
けれど、言葉に織り交ぜられた彼女の優しい気遣いにハンナは心が温かくなっていくのを感じた。
彼女がここに「帰って来る」といったことが、まだここをホームだと思っていることが、すごく、嬉しかった。

「また楽しみにしています、あなたの紅茶はお気に入りです」

「ありがとう、アリー。待ってるわ、ずっと」

「はい」

2人は同級生だった。
Lが卒業した後に、後を追うかのように出て行ったSとその時は仲良くなることは出来なかったけれど。
その後ニュースでLがキラ事件に乗り出したと聞いて、彼女も一緒にいるのではないかと不安になったのを覚えている。仲良くなかった、けれど誰よりも優しさを隠していた彼女の無事をずっと祈っていた。

彼女と再会したのはキラ事件が終息した半年後で、相変わらず無表情な彼女は昔から仲が良かったニア、メロ、マットに囲われながら過ごしていた。

そんな彼女の世話をワイミーから直々に頼まれた時は本当に驚いたものだった。久しぶりに会ったSは相変わらず素っ気なかったけれど、珈琲を差し出すとお礼を言ってからじっとハンナを見つめて「次は紅茶をお願いします」と言ったっけ。

* * *

珈琲はワイミーが淹れたものだったから「ワイミーさんに伝えますね」って言うと少ししかめっ面をした彼女が不機嫌さを隠しもせずに「もしやこれもワイミーさんが?」と珈琲を持ちあげた。

「はい、飲みなれたものの方がいいだろうと思って」

「…はあ、まあいいですが」

歯切れの悪い返事をしたSに何かおかしかっただろうかと首をかしげる。だったら次に気を付けたいから伝えて欲しかったのだが、元々口数が少ないSが語ることはないだろう。ワイミーさんに聞いてみようか。

ただ珈琲が不味かっただなんてことは淹れた人がワイミーさんだから違うだろうし、珈琲好きだと言ったのもワイミーさんに尋ねて確認済みである。けれど次は紅茶がいいと言われたことから本当は紅茶が良かったのだろうか。いやでも、紅茶は全く飲まないって。
何が彼女の機嫌を損ねたのか分からない。

彼女の活躍を知っているからこそ、ここに居る2週間は彼女の支えになりたかたのだけれど、友人でもなかった私にはどうやら彼女の不愉快がどこから来るのかすら分からない。

ワイミーさんなら彼女の気を損ねずに完璧にこなしたのだろうか。もやもやしたものが心を占領し始めた時だった。Sが「ハンナ」と私の名を呼んだことにドキッと心臓が跳ね上がった。私の名前を、Sが知っているとは思わなかった。

「次は、あなたが淹れた紅茶にしてください。ワイミーさんのではなく」

それは、ワイミーさんは多忙だから頼るなって事かな。どんどん悪い方にしか考えられない私は暗い顔を見せたのか、Sは浅くため息を吐くとイスごとこちらを振り向く。

ああ、邪魔した。手伝うどころか、不愉快な思いをさせて、仕事の邪魔まで。そんなつもりじゃなかったのに。しょんぼりと顔を落とすと視界がじわりとにじむ。ああ、これまでどんなことだって挫けずに来たのに、情けない。

くしゃりと歪んだ顔は、持っていた金属のお盆に映って余計に情けなくなって泣きそうになった。


つづく
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