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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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やっつめ


※未来篇
※オリキャラのみ

その人を初めて見たのは、ハンナに頼まれた珈琲をある部屋に届けるように言われた時だった。

ハウスにこんな場所があったんだと思うくらいに静寂が支配する廊下を進むと真っ白な扉がぽつんとそこにある。ハウスではLと同じくらいに有名なあの「S」がこの部屋で仕事をしているから珈琲をもって言ってくれないかとハンナは言ったけれど、私があんな有名な人の部屋に入っていいのかな。

緊張でガチガチになっている足を懸命に動かしながら部屋をノックすると、少ししてから中から静かな返事が響いて来た。

「し、失礼します」

中は簡素な作りの部屋で、全体的に白い壁紙や天井の中にパソコンが何台もあった。それらを一度に動かしながらたった一人この部屋に存在する人物もこの部屋同様真っ白な存在で、黙っている私に向けて「ハンナに頼まれたのですか」と抑揚のない声がする。

「あの、その、珈琲を、頼まれました」

そう言ってどうしたらいいか戸惑っていると、パソコンに向かっていた顔がゆっくりとこちらを向き、お空と同じ色の瞳が静かにこちらを見つめた。

思わずドキッとして肩を跳ね上げると多分Sだと思うその人は「取って食べたりはしません」とまた抑揚のない声で言って珈琲を指さした。

「いただいても?」

「は、はい」

ゆっくり、でも確実に歩み寄っておぼんをSの手元に持っていくと、ゆるりと口元だけ緩めたSが私の目を見てお礼を言うと、また前を向いてしまった。

ハンナに頼まれたことは終わった。
そう思いゆっくりそのまま下がろうとした私は、ふっと視線を感じて前を見て驚いた。

Sがじっと私を見ている。穏やかな波のない澄み切った海のようなきれいな瞳が、私をじっと見つめるとやがてその瞳は一瞬反らされ、また向けられた。

「甘いものはお好きで?」

それに私はきょとんとした。
Sはこのワイミーズハウスで、Lとは違った意味で尊敬される人である。Lの後継者を目指す人はいっぱいいるけれど、同じだけSと一緒に働きたいって後継者を目指す子もたくさんいるんだ。かくいう私はどちらかというとS推しで、いつか、会ってみたいと願っていた。

けれど実際目の前にいるSに緊張して何もしゃべれない。

「す、好きです。大好きです」

「そうですか。私も甘いものは大好きです」

Sは少し悩んだ様子を見せると、やがて自分のデスクにあるカップに立てられたチョコキャンディを数本手に取り私に差し出してきた。

それが何の意味を示すかわたしは分からない。
きょとんとして首を傾げた私に、Sは「お礼です。珈琲とても美味しかったですよ」と私の手にそれを握らせると、今度こそ後ろを向いて仕事に戻ってしまった。

私は唖然とそれを見た後に、うれしくて「ありがとう、S」と笑ってから、しまったと口を押え「失礼しました!」と勢いよくSのいる部屋を飛び出した。

「(挨拶もきちんとできない失礼な子って、思われてないかしら)」

だとしたらショックだ。
私にとってSは憧れであり、大好きな人だから。
また会えるかな。ハンナに頼んでみようかな。
Sはいつまでワイミーズハウスにいてくれるんだろう。
暫く居てくれたら嬉しいのに。
取り合えず私はいち早く今の喜びを伝えたかった。
誰かにこの感情を共有してほしかったんだ。

「ハンナ!あのね!」

「ナナ、珈琲を持って行ってくれてありがとうね。どうかしたのかしら?」

「今ね、Sにチョコスティックを貰ったのよ!私これずっと取っておいて宝物にするっ」

ほら見て、とハンナの目の前に掲げたチョコスティックはキャンディのように棒付きの丸いチョコが綺麗にラッピングされ、色とりどりのリボンがついているもの。

「ふふ、よかったわね、ナナ。でもせっかくSから貰ったチョコをだめにしちゃったらもったいないわ」

「で、でも…私取っておきたいの」

「んー…それじゃこうしたら?」

ハンナは一本のチョコからリボンを外して私の背中に回ると、私のポニーテールに可愛らしくリボンを結ってくれた。

「こうしたら形として残るし、ずっと一緒ね」

ハンナってばとっても頭がいい!
私は自分の髪を彩っている水玉のリボンを思い浮かべ笑顔を浮かべると、ハンナにお礼を言って部屋に向かった。

いつか、大人になったらSにまた会いたい。
それまでにもっと勉強頑張ろう。

小さな少女に訪れた小さな幸福は、少しだけ彼女の未来を明るくした。そんなこととつゆ知らずにいるであろうハウスの奥の奥の小さな部屋に滞在している古くの友人を思ったハンナはそれを友人に伝えようか考えながら、広間を後にした。



ハンナ

いつつめの過去篇で出てきたハウス出身の卒業生。
卒業後ロジャーの口添えと彼女の意志でハウスに残りシッターとして働いている。
今ではしっかり者の優しいお姉さんとして慕われているが昔は気弱でSとは馬が合わない間柄。その辺の話は別話にて。
事件解決後ハウスを拠点のひとつとしているSの世話係をしている。
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