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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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むっつめ


「この部屋に来るのもだいぶ慣れてきました」

「慣れなくていいのでさっさと自室に戻るかしてください」

相も変わらず私の部屋に居座ってくる少年は未だに名前を明かさない。

私の方も本名ではないが愛称を明かさない今、お互いに名前も知らない変な関係が出来上がっていた。

「君の持っているそれは何というお菓子ですか?」

私のベッドでチョコレートの包みを開けて口に放り込む彼を見るのはもう慣れてしまった。

慣れたくはなかったのに、ベッドで食べ物を食べないでいただきたいという毎回していた忠告もとうとう彼に受け入れられることはなかったためだ。

「Japanese ``SENBEI``というお菓子らしいです。メアリーに貰いました」

「甘いですか?」

「甘いというよりしょっぱいといった感じらしいですが…あげませんよ」

「まだ聞いていないのになぜ断るのです」

指をくわえじとりとこちらを見てくる彼はなんと子供っぽいのだろうか。初対面の私に感情の起伏が分かりやすいと言っていたが自分も大概ではないだろうか。

メアリ―からもらったSENBEIをスッと彼とは反対側に押しやるが、彼はそんなのお構いなしに初めて見た異国のお菓子に興味津々である。

「それ一枚ください」

「一枚しかないものを一枚くれとは図々しいとは思いませんか」

SENBEIというものはメアリーが良くくれる袋にいくつか入っているビスケットのようなものではなく、袋に1枚だけ入っているだけだった。

それを日本人はこたつに入りながら温かい緑茶に浸しながら食べるらしい。メアリーが嬉しそうに「Japanese food!」と言いながら語ってくれたが多分日本人はそんな食べ方していないと直感で思った私は、緑茶の入ったお皿に浸そうとしたメアリーを押し止めて、緑茶はコップに入れてもらいおせんべいは袋のままもらった。

「ケチですね。」

「まだ言いますか。欲しいならば貰ってくればよいのでは?今日のおやつとして配られていたものですし」

「君の持っているそれが欲しいです」

「ワガママすぎませんか。とにかく私もこのSENBEIというものは楽しみにしています。あげられませんよ、諦めてください」

「ケチです」

断った後もじとりとSENBEIのある方を指をくわえたまま見ている彼に私は呆れた視線を向けた。そんなに欲しいのであれば今すぐ食堂にいってメアリーや他のシッターに頼めばいいんだ。さっき食堂で渡してくれた時にお徳用をまとめ買いしたと言っていたから数が足りないなんてことはないはず。

「いいです、君が何かに気が行っている時に盗むことにしますから」

「性格悪いってよく言われません?シッターに言えばくれますよ」

「じゃあ君がそれを私に譲って、もう一度シッターに貰ってきてください。」

「どこのワガママな暴君ですか?質が悪いですよ」

あくまでも自分はここにあるおせんべいが欲しいと言い張る少年。

おせんべいに種類なんてない。買ってきてあったのは全部このSYOUYUとかいう調味料を塗りたくって焼いた丸い形のものだけだった。そう伝えても「そうですか。ください」としか言わない彼にどうせ動きたくないからだろうと呆れた視線を向けてため息を吐いた。

「わかりました、メアリーにもう一度貰ってきます。ですがSENBEIはベッドの上では食べないでくださいね。ビスケットのようにこぼれそうですしチョコのように一口では食べられませんから」

「君は潔癖症ですか?今のうちから母親のように口うるさいと嫌がられますよ」

「潔癖症でなくてもベッドでものを食べられるのはいい気はしませんし、口うるさく言われるのが嫌でしたら直したらよいのでは?」

「母親ではありませんね。ワイミーにそっくりです」

「それは光栄なことで。緑茶を一緒に貰ってきます、それと一緒に食べると格別だそうで。それまで待っていてください」

面倒だがここで押し問答をしている方がはるかに面倒であるため、部屋を出て食堂に入ると既に大半がおやつを食べ終わっていたためか人はあまりおらず、食器を洗っているメアリーだけが残っていた。

「メアリー、すみませんがSENBEIとやらをもう一枚いただけませんか」

「あら、アリーったら。SENBEIが気に入ったの?」

自分の好きなお菓子を気に入ったと言われたことが余程嬉しかったのか、お菓子がしまってある棚に手を掛けたメアリーに「いつも部屋にくる少年に取られました」というときょとんとして少し考えてから「ああ、エルのことね」とまた嬉しそうに笑った。

「私はお菓子を取られて不機嫌なのに、メアリーは随分ご機嫌ですね」

「あなたにお友達が出来たことが嬉しいのよ」

「友達ではありませんよ。大体彼の名前を私は今知りましたから」

「あら、名前を知らずに何て呼んでいたの?」

「不健康野郎」

「あら」

目元にクマがあり、偏食気味で睡眠もろくに取らないというとても健康的には見えない彼にはぴったりなあだ名だ。

メアリーは口元に手を当てて目を丸くすると「じゃあ戻ったらエルって呼んであげるといいわね」といいながらSENBEIを何枚かお皿に乗せてくれた。

「なぜです?」

「誰でも名前を呼ばれれば嬉しいものだもの。だから彼にもアリーと呼んでもらうといいわ」

「…そんなものですか」

お皿とカップに入った緑茶を受け取った私はそのまま来た道を引き返して自室へと戻った。
そこで見えたのは言いつけ通りSENBEIを食べずに変な座り方で待っている彼の姿。

「お待たせしました」

「ええ、すごく待ちました。早く食べましょう」

ささ、とベッドから降り床に座った彼には一応学習能力は備わっていたらしい。

彼の名前を呼んでみてといったメアリーの言葉が脳内で何度も再生されたが今日はやめておこう。同じように床に座るとすっかり冷めてしまった自身のお茶を飲み込んだ。



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