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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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みっつめ


Sがこの捜査本部に顔を出すようになって2週間が過ぎた。彼女と過ごすようになって分かったことが増える。

彼女は、Lと同じくらいに偏食であり糖分をこよなく愛する人種のようだった。
常にスナック菓子やスイーツに手を伸ばすLとは違って、「重要なのは味ではなく栄養素」という言葉を体現するように目の前の皿に大量に盛られた角砂糖をお菓子でも食べるようにその口に入れていく彼女にL以外は唖然としていたが、彼女はそんな視線を集めながらも気にすることもなくLから回された動画解析にあたっていた。

「島崎は竜崎のようにスイーツには興味ないのかい?」

彼女の指が止まるのを見計らい隣から声を掛けた月にS改め島崎は目をぱちくりとさせてから月の方を見た。

相変わらず何を考えているのかわからない無機質な瞳である。

「何か変でしょうか?」

「いや、変というか「変じゃありませんよ。頭を動かすうえで糖分は必要不可欠です」

「やはり竜崎とは話が合うようです。糖分は脳にとって潤滑油のようなもの、私たちは体より脳を動かす職業な分これだけ摂取するのは可笑しな話ではありません」

「いや他に摂り方はないのかい?女の子ならほら、可愛いスイーツとか、人気のお菓子とかさ」

竜崎と糖分談義に花を咲かせそうになっていた彼女はぴたりとそれを止めると、竜崎に向けていた視線を月に向けて彼女と初対面の人間は分からない程度に怪訝な顔をした。

「別に女の子だからと言って可愛いものが好きという事はイコールにはならないのですよ。私は糖質が摂れればそれでいいのです、見た目にはこだわりません。」

「月君は女の子にモテる割にはその辺の理解はしていないんですね。一括りにすることは島崎だけに限らず、他の女性にも失礼な事ですよ。偏見です」

「竜崎だけには女心を諭されたくはなかった」

話している間にも、角砂糖をほいほいと口の中に入れていく彼女はその手を止めると月の方を見た。
少し悩みながらもがさりと角砂糖の入った可愛らしい袋を持ち上げると月の方に差し出した。

「食べてみますか?」

よく見ると袋の中には可愛らしい動物の形やコンペイトウなどが混ざっていて女の子らしい袋におさまっていた。服装から持ち物に至るまでシンプルなデザインのものが多い島崎がそんなものを買うとは思えないし、きっとワタリが女子力のない彼女を思って揃えているのだろう。

いきなり向けられた角砂糖の袋に、目を見開き固まっている月にそんな彼をじっと見ている島崎の腕を流れるように取り彼女の持つ角砂糖の袋を横取りしたのは竜崎の方だった。

「月君が食べないなら私が貰います。貴重な糖分をいつまでも手に取らないなんて月君は可笑しな人ですね、ダイエット中ですか?」

「誰がダイエット中だ」

同じ角砂糖愛用者だからだろうか。
「この角砂糖美味しいですねどこのですか?」「〇〇にある――というお店のようです」と会話をして、今までのやり取りなんて全部なかったかのようにまた自然に仕事に戻った彼らに着きは少しだけ「惜しい事をした」と思っている自分に首をぶんぶんと横に振ると、自身もモニターの方へ向き直った。


「おはよう、島崎」

次の日、先に捜査本部に来ていた島崎に後ろから声を掛けた月は彼女の手元に一つの紙袋を置いた。
それに少しだけ、ほんの少しだけ、時間が止まったかのように島崎のタイピングしていた手が止まった気がした。しかしそれは本当に意識しなければ分からないほどの一瞬で、すぐにまたどこの国の言葉かすら分からない言葉を打ち始めた彼女は「ありがとうございます」とだけ後ろにいる月に伝えた。

彼女の角砂糖の消費量はえげつない量である。
見ていて少しの胃もたれがやって来るほどで、目の前で並々と紅茶に入れられた日には他の人の行動などに疎いあの松田ですらも自身の紅茶に砂糖を入れるのを躊躇ってしまう程。一緒にいたLはそんなことに構うことなくむしろ島崎以上に紅茶に入れた砂糖が溶け切らない部分をジャリジャリと音を立てて食べ続けているのだが。

そんな生活習慣病まっしぐらの生活になんとか終止符をつけようと月が買ってきたのは妹の粧裕に聞いて今若い子に人気の可愛いお菓子をいくつか見繕ったものである。

それを買いに行くときもお店には妹くらいの年代の女の子しか居なくて、もちろん恥ずかしかったがエレベーターですれ違った時のあのワタリの孫同士が仲良くしているのを見守る祖父のような温かい目ほど恥ずかしさを感じたものはない。

大体がなぜキラ容疑者である自分にそんな瞳を向けてくるのかすら疑問だが。
自分の席に座り、チラリとSの座っている方を見ると何やら仕事の話をSにしていたLがそんな月の視線に気づいた後にSのテーブルに普段ならない可愛らしい存在を見てからまた月の方を見て少しだけ、ほんの少しだけ笑った。

それを見た月は条件反射的に椅子から立ち上がると、いつの間にかSのテーブルにあったお菓子を手に走り出したLの気まぐれによって第何次になるか分からない争奪戦が開幕した。

その争奪戦の結末はまた別の話で。



(あれ、島崎ちゃんどうしたの?何か無くしもの?)
(…いえ、ここに置いておいたお菓子がなくなっていて)
(えっ島崎ちゃんがお菓子とか珍しいねぇ)
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