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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
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第九十三話    『一つの終わり』


『悲惨だった。しかし、そんなバケモノと化した肉のカタマリであったとしても、最愛の娘だ。彼は、そのバケモノと1週間ほど暮らしていた。我々に、その事実を悟らせない、素晴らしい演技力と……奥方の別荘地という、我々の知らない隠れ家を使ってな』

『悲しいことだな。そいつの気持ちも分かるけど……それは、あまりにも……』

『もちろん、彼も理解はしていたよ。それが、あまりにも異常なことであり、動き続ける我が子の死体が、長くは保たないこともな』

『どういうことだ?』

『生け贄がいるんだよ。若く新鮮な命を捧げなければ、かりそめの命は尽きる。彼は、我々との共同捜査のあいだに、そういった超常の知識さえも入手していたのだ』

『まさか、そいつ。警官のくせにヒトを殺したのか!?』

 ……だとしても。

 モルガナは口ごもってしまっていた。もしも、そんな悲惨な事件が起きていたとしても、その警官のことを責められるのだろうか?……最愛の娘のために、罪を犯すことは悪なのだろうか?どうしようもならない現実を、否定したくて必死だった男の行動を、悪だと断じられるのだろうか?

 倫理に反していることは承知しているが、それでも、その行いには確実に愛情が反映されている。愛なら、全て許されるとは言わない。だが、それでも。

 モルガナは小さな口のなかにある牙を、ぎゅっと噛みしめていた。正しいコトをしたいと思うものだけれど。正しいコトが何なのかを見定めるコトは、そこそこ難しいことだった。

 悠久を生きる長寿の魂は、苦悩する若き魂を見つめながらセンザンコウの剥製で作られた体をゆっくりと動かす。モルガナに近づき、ゴウトは物語の続きを語るのだ。安心させてやろうと思ったのだ。モルガナは、過剰に苦悩しすぎている。

『……いいや。そこまでは出来なかったんだよ。言っただろう?彼は、常識のなかに生きている人間だと。彼は苦悩しつつも、警官であり、ヒトであり、悲劇の人物であり、父親だったよ。自分のような父親を、作れるほどには狂うことが出来ない、そんな常識人だった』

『……そうか。じゃあ、どうなった……?』

『自分を食わせた』

『ま、マジか!?』

『真実だ。オレたちに嗅ぎつかれそうだと悟った彼は、その別荘で自分を娘だったものに食わせていた。娘が飢えて暴れる様に耐えかねたのだろうし……邪道の術に手を染めたことへの、贖罪の意味を込めていたのかもしれない。そして、娘のかりそめの命を少しでも延命するためでもある』

『ん?どういうことなんだ?』

『呪われた金属……そいつが、蘇生術の鍵となる呪具だったのさ。オレたちは、それを回収し、オレたちのための武器にすることで、事件を終わらせようとしていた。そして、迂闊なことに、彼にもそのことを聞かれてしまっていた』

『その金属を武器に加工したら、無事に解決する予定だった。それを、父親は拒んだということか』

『そうなる。彼は、金属を『何か』に加工させ、世の中に流通させた』

『流通?』

『盗品をさばく質屋があってな。そこに、持ち込んだのさ。そういう店は、すぐに質流れする。盗品を手元におけば、警察が取り調べをすれば言い逃れが出来なくなるからな』

『呪われた金属が、売れるのかよ……』

『売りやすくはあった。なにせ、あの金属は、月村が遺した資料によれば、ほぼほぼ純金に近い』

『なるほど。じゃあ、融かすだけでも、高く売れるか』

『ああ。実際のところ、すぐに売れちまった。そして、その呪われた金属は、日本のどこかに流れて行った。追跡はしてみたが……けっきょく、見つけられそうにない。どれぐらいの量があったのか、どれぐらいの数に分けたのか。見当もつかんわけだからな』

『それを知っている男は、娘に自分を食わせて死んでいるわけだもんな。お前たちでも万能じゃないんだな』

『今の時代の方が、まだそういう捜査は楽なんじゃないか?』

『そうかもしれないな。色々な法律や技術がる』

『……とはいえ、オレたちの落ち度だ。呪いを完全には終わらせることは出来なくなってしまった。呪いの源である何かは、日本のあちこちを回っているだろう』

『……それで、さ』

『ん?どうした』

『いや。娘はどうなったんだ?』

『気になるか。心の優しいヤツなのか、あるいは好奇心が旺盛なのか。それとも、どちらも兼ねているのかな』

『……多分、いちばん後のヤツだろう。我が輩は、優しいだけの男ではないから』

『そうか。そういう男は好きだ。教えてやる。あの子は、葛葉ライドウの名と技により、浄化された』

『浄化ってことは、仕留めたってことか』

『そうとも言えるが、もう少しだけ優しいかな』

『優しい?』

『……悪魔召喚師には、魂に安寧を与える術もある。あの子は、呪いから解き放たれて、静かに父親の遺体と共に荼毘にふされた……オレたちがしてやれる、最良の行いではあったと思う』

『……そうか。悲しい物語だが、最後は、ちょっとだけ優しかったんだな』

『努力はした。彼女が、それを喜んでくれるかは、分からないが。葛葉の一派としては、やれるだけやったのさ』

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