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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
目次

第八十四話    怪盗猫の冒険その五


 行くべき場所には確信を持てた。そこは、黒い猫だ。自分に似てもいるが、少し違う。自分よりも黒い色が多い猫が、白い光の積もった場所を歩いている。雪原を歩いているようにも見えるが、この白を作り上げる光は温かなものだ。

 モルガナは、その黒い猫を目指した。心で求めるだけで良かったのだ。そうするだけで、落下の方向は変わり、黒い猫目掛けて進むことが出来るのだから……黒い猫はどこかを目指して歩いている。急ぐわけでもなく、ゆっくりとした歩調であったが、止まることもない……。

 誰かを目指しているのだろう。そんな気がする。何処かを目指しているのではなくて、きっと誰かだ―――何故だか、確信を持ちながら、そう考えることが出来ていた。吸い込まれるような落下は継続して、モルガナは前脚を伸ばし、その黒猫の背中に肉球で触れる……。

 その次の瞬間、モルガナは黒い猫のなかへと落ちていく。まるで、それは闇のようでもある。光が作りあげる白とは、まったくの真逆ではあったが……不安に思うことはない。温かさは変わらない。心臓と思しき鼓動を、モルガナは感じ取ることになったが。

 温かい……そして、やはり、どこか懐かしさを感じる。ベルベットルームにも似た気配……ペルソナたちを配合して、アルカナの因果を操ることで、新たなペルソナを作り上げていく。そんな行いが許された空間に似ている。

 あるいは大きな力の所有者…………『ワイルド』……運命を変えるような、強靭な意志の力を持つ者…………やっぱり、ペルソナ使いみたいな存在らしい。この黒猫野郎も。そして、この黒猫野郎が見つめている、あの時代遅れの学生服姿の男も―――。

 ―――蓮に似ている。

 きっと、蓮と同じぐらいの力を持っているのだろう。最強のペルソナ使い。ヒトの怠惰で堕落した願望が生み出してしまった『神』さえも、打ち砕いてしまえるほどの能力を持った蓮と、同じぐらいの強さを持っている存在―――やはり、我が輩たちは、いろいろなところに似通ったものがあるらしいな、ゴウトよ。

 ……融け合っていく。

 ゴウトの視線が、モルガナのものになっていく。

 間借りするような感覚だろうか。自分が主体となってはいない感覚が、いろいろと自分の精神に接続されてくる。モルガナはそれを気持ち悪いとは想わなかった。むしろ、どこか懐かしい感覚だ……かつては、きっと……こういう闇色のドロドロとして存在として、メメントスの……ヒトの意識が生み出す、泥沼のような海のなかにいた。

 そんなことを思い出すのだ。

 ……こんなことを考えるべきではないのだが。きっと、死ねば……命に終わりがくれば、こういうドロドロとしたものに融け合って、それなりに安らぎを得られることになるのだろう。

 そういう形ってのは、きっと……永遠みたいに長い時間を過ごすには、悪くない行いだろうとモルガナは考えてしまう。このゴウトってのは、死の安らぎを知っているような存在だ。我が輩のことを悪魔呼ばわりしていたが、コイツはきっと、本物の悪魔よりもタチが悪いんじゃなかろうか?……そんなことを想いつつも、どうしてか強い親近感のせいで恐怖も拒絶も感じることは出来なかった。

 それに。

 ビビっている場合じゃないのだ。眼の前にいる時代遅れの姿をした学生は―――蓮と同じような気配を持つ少年は、巨大な悪意と戦っている最中だったから。

「……行くぞ」

 小さくて静かな声でそうつぶやいて。少年は走っていた。モルガナも……ゴウトも追いかけていく。それなりに距離は取ってはいるが、共に戦うことをゴウトも選んでいるようだ。

 戦える力は……無いようだ。

 それでも関係はない。パートナーとは、そういうものなのだとモルガナは考える。ペルソナを使えようが使えまいが、自分がいつだって蓮のそばにいることを自然なことだと思えるように……ゴウトもまた、あの少年に対して、まったく同じ感情を抱いているのだろう。

 ゴウトの脚が地を蹴って、刀と拳銃を構える少年の後を追いかけていく。少年は、眼の前にいる巨大な怪物を見据えていた。

 ……赤黒い体を持つ、巨大なバケモノ……羊みたいにカールした角を持った、半裸の巨人……背中には、コウモリのそれみたいな形状をした翼が生えている―――端的に言ってしまえば、そいつはどうにもこうにも、典型的な『悪魔』という形をしていた。

『……お前らは、ああいう『悪魔』と戦って来たのか?……我が輩たちが知っている、シャドウみたいな存在と……』

 ゴウトからはコトバとしての答えは返ってくることはない。それでも理解が及ぶのだ。その考えは間違いではないと。共有された感覚と知識と記憶が、実感させる。自分の考えが間違いなどではないことだと囁いてくれるのだ。

『お前らは……戦って来たんだな。ずっと長い間……この日本という国を護るための存在として、使命を帯びた生きて来た。背負わされた運命とか、義務感か……我が輩にも分からなくはないが……その中でも、お前は自由意志を使って、けっこう好きに生きているようじゃないか、ゴウト』


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