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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
目次

第五十話    『モナの葛藤』


『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!』

 腕を断ち斬られた死霊が、痛ましい叫びを放つ。城ヶ崎シャーロットは、その声に恐怖して、目をつよくつぶる。

 ジョーカーはチャンスに反応しいてた。城ヶ崎シャーロットの体を、後方に引きずることで、死霊から彼女のことを遠ざけていく。

 モナは苦悶の表情を浮かべながらも、剣を死霊に向けるのだ。

『女相手に剣なんて振りたくはないが……それでも、ヒトを殺そうというのなら、我が輩は止めるぞ……』

『……ぐうううっ!!なんでだ!!なんで、私ばかり、何にもないんだッ!!』

『なに……?』

『いつも……私ばかり、何もなかった!!……小さな頃は元気だったのに、病気になってからは、元気もなくなった!!お母さんも、病気だった。私と同じ病気!!それで、私よりも先に死んじゃった!!……学校に行ったら、私は弱くて……入院していたから、バカで……っ。皆から、除け者にされたッ!!』

『……そうか。それは、辛かったのかもしれない。だけど……城ヶ崎を殺そうとしていい理由になんて、なるわけないだろ』

『どうして?……そいつは……私よりも、たくさんの楽しいことを知っている。たくさん食べられて、たくさん友だちと話して、たくさん笑っている……私は、学校で笑ったことなんて、一度だって無いのに……ッ』

『……そうだとしてもだ。そうだとしても、どんなに辛い目に遭ったとしても……ヒトは、ヒトの不幸なんて、望んじゃダメなんだ』

『どうして!?……どうして!?分からないじゃない!!私のことなんて、皆、分からないんだもの!!だったら、同じような苦しみを与えて、私のことを分かるようにしてやらなきゃ!!』

『……それはダメだぞ。そんな考えは、間違っているんだ』

『間違っていたら、悪いの!?……私は、間違っていたとしても……私の痛みを本当に分かってくれる友だちを作りたいのよ!!』

『……違うぞ。そんなことをしても……誰もお前を分かってはくれない。お前は、悲しくて辛い思いをしたのかもしれない……だが……ヒトを殺しても、そいつと仲良くはなれないんだ』

『そんなことないわ!!だって、天使さまが、教えてくれたんだもの!!』

『……天使さまだと?……誰だ、誰が……そんなことをお前に吹き込んだ?』

『天使さまよ!!私は……天使さまの言葉に従って、私の痛みを共有してくれる、本当の友だちを作るんだッ!!』

『間違っているぞ……そんなことは、間違っている』

『間違っててもいい!!独りぼっちよりは、ずっと、いいものッ!!』

『なにッ!!』

 死霊はそう叫びながら、その体を巨大化させる……その体が膨らんでいく。むくむくと、バランスの崩壊した肥大。無理やりに空気でも注ぎ込まれているかのような、なんとも醜い増大現象であった。

 モナはその光景を目の当たりにしながら、顔を引きつらせていた。

『なんだ、この気配は……パレスの主が、欲望で肥大化していった時とは、あまりにも違う……欲望じゃない。生きるための強い衝動じゃない。自分から湧き出てる力じゃない……誰かが……あの子に、渡しているのか……?絶望……っ。絶望が、あの子に注ぎ込まれて……デカくなっている!?』

『天使さまが、力を貸してくれてるよ!!だから……私は、まだ戦える!!ほら!!新しい腕だって、生えるんだッ!!』

 モナの剣に斬られたハズの腕が復元されていく……その腕は、金属だった。ハサミの刃が群れを成して作られたような、刺々しい腕であった。いや……腕だけではない。身の丈3メートルほどの大きさになった体のあちこちから、刃が生えている。

『この手で、この体で、抱きしめて、教えてあげるんだ!!私の痛み!!私の心と、私の体が負って来た痛みッ!!……全部を、あなたに教えてあげる!!』

『……何かが、お前を変えているな……そいつが……お前を、歪めている……天使さま……だと?……そいつが、この事件の本当の犯人かよ……ッ』

「モナ!!」

『……っ!!』

 刃の少女が、その巨大化した腕を振り回してきた。モナは俊敏な動きで、その一撃を躱して見せるが……コンクリートの床に、無数の刃が突き立てられる。

「う、うそ!?……床に、刺さっちゃった!?」

『ハハハハ!!そうです!!私、私、強くなりたかったんです!!……天使さま!!私を強くしてくれて、ありがとうございます!!』

『……クソ!!マトモな相手じゃない……だが、力尽くで倒していいのか、この子を……そもそも、そんな力も今は残っちゃいないような気がするぜ……ッ』

「……倒せないのなら、退却すればいいだけのことだ」

『ん。ジョーカー?』

 ジョーカーはいつのまにか、城ヶ崎シャーロットの手を引いて、巨大化した少女の背後を取っていた。そこから非常階段までは、すぐ近くである……モナの会話が、少女の意識を誘導していたのだ。

「モナ、非常階段に駆け込むぞ。巨大化した彼女は、あそこを通れない」

『おお。なるほど……ここは、一時撤退させてもらうぜ!!』

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