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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
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第十一話


 パトカーに乗せられるのは久しぶりだが……やはり、慣れるようなものじゃないな。雨宮蓮はそんなことを考えている。

 パトカーの窓から見える生まれ育った街並みは、いつもと少し違った景観であるかのように彼の瞳には映っていた。

「……パトカーには、いい思い出とかない……よな?」

「……まあな」

「えー。そうなんだ。レンレン、パトカー好きくないの?」

 モルガナを抱っこしたまま、城ヶ崎シャーロットはそう訊いてくる。蓮はうなずく。

「好きくないな」

「そっかー。私としては、けっこう楽しいんだけどねー」

『……変わった子だなぁ……まあ、小さい子供なんかには人気みたいだよな、パトカーとか消防車ってさ?』

「それで、雨宮くん……なんつーか。以前は、すまなかったな」

「……かまわない」

「ハハハ……君は、ずいぶんと大人だなぁ。許してくれるのか」

「許すも何もない。終わったハナシだ」

「……ホント、大人な子ね……私たちとすれば、助かるというか……少し胸のつかえが取れるような気持ちになるけれど……」

 城ヶ崎の姉は、ため息を交えながら語る―――蓮は、彼女の言葉の内容よりも、彼女と城ヶ崎シャーロットが全く似ていないことの方が気になり始めていた。

 シャーロットは露骨なまでに白人っぽいが……姉は、まったくもって日本人にしか見えない。

 ……込み入った家庭環境なのかもしれない。そんなことを考えてしまう。だから、そんなことは訊かずにおこう。今は……警官が自分に話しがあるらしいしな……。

「……でもさ。とりあえず。謝っておくぜ?……あの時は、本当にすまなかったよ。与党の大物議員が相手だからと言って、君の反論も聞かなかった。君は……むしろ、正しいことをしていたというのにな……」

「……正しいコトが、報われないこともある」

「……達観しているのね。いや、達観させてしまったのかしら、私たち大人の対応が」

「色々と経験させてもらった。でも、成長することも出来た。許すことはムリだが、恨むこともない」

「……レンレン、なんだか大人だねー……って。そろそろ、どんなことがあったのか、教えてくれない?」

「アンタには関係ないでしょ、シャーロット」

「えー。ずるーい。私だけ仲間外れじゃないの?仲間外れとか、おまわりさんがしても、いいんですかーって、思うんですけど?」

「……また、へんな論法を使ってきて……」

 城ヶ崎の姉は、頭を抱えている。城ヶ崎シャーロットは、口が達者なようだ。そして、好奇心も旺盛だ。

『……蓮に質問すれば、はぐらかされるかもしれないって気づいているんだな。悪くない洞察力だぞ』

「個人のプライバシーに関わるようなことなんだから、秘密にした方がよいでしょ?」

「えー?」

「……いや。どうせ、今時の子供たちの耳は早い。ネット経由で、色んな情報が飛び交うんだ。雨宮くんのことは、すぐにバレるさ」

「……そうかもしれませんけれど」

「そういう時、仲良しのシャーロットちゃんだけでも、本当の事情を知っておいてもらえていたら……頼りがいがあるんじゃないかな。警察には、不名誉なことだけどさ」

「……そうですね。でも、本人に確認してからの方がいいことです。ねえ、雨宮くん」

「なんだ?」

「獅童元・議員とのあだに起きた『事件』のことを、うちの妹に教えてもいいかしら?」

『……どうするんだ?善意から来る提案ではあると思うが……?お前がイヤなら、断ってもいいことだと思うぞ』

 蓮はしばし考えて、決めた。

「教えてもかまわない」

「そう。分かったわ……シャーロット、教えてあげる。ちゃんと、誤解が無いように聞いてね……?」

「う、うん。わかったー!」

 城ヶ崎の姉は、蓮が一年前に巻き込まれてしまった『事件』について説明していく。

 蓮からすれば、それはトラウマめいた痛みを持つハナシにもなってしまう。一年前、塾帰りの夜道で、蓮は女性の悲鳴を聞いてしまった。その悲鳴が気になり、蓮は走り始めていた。

 女性と、一人の男がいた。スキンヘッドの男で、スーツを着ている……その男はイヤがっている女性に無理やり言い寄っていた。じつに尊大な態度で。やめさせなくて……そう考えながら近づいて行くと、男はこちらに気がつく。

 酔っ払った顔を、獣のように歪めて、「なにか文句があるのか、クソガキ!?」と因縁をつけてくる。怯むこともなく、鋭いと評判の目で睨み返していた。獅童は、その行為に腹を立てたのだろう。こちらに向かってつかみかかろうとして、自分で転けた。

 そして頭を打ち、負傷していた―――何とも下らない自滅ではあったが、酔っ払っていた獅童は怒りをあらわにして、警察を呼んだ。そして、与党の国会議員という立場でありながら、職権を濫用するかのように権力を行使した。

 蓮を傷害事件の犯人にしてしまったのだ。蓮は有罪となった。あきらかな冤罪であったが、蓮の訴えが聞き届けられることもなければ、まともな捜査が行われることもない。警察も検察も、獅童の持つ権力の前に、掲げているはずの正義を棄ててしまったのである。

 ……その事件を、城ヶ崎の姉はシャーロットに語って聞かせている。

『……何度、聞き返しても、腹が立ってしょうがねえぜ。獅童も獅童だが……周りの大人もクズ過ぎる』

 モルガナが自分のために怒ってくれているでの、蓮の心は救われるのだ。


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