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サヨナラだけが人生だ ~合縁奇縁~

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

絶望からの架け橋

ルフィがインペルダウンに侵入したその理由。
それはどうやら、海底監獄の最下層に捕われた人物に相まみえる為であったとの情報が入ったのだ。
「ある、人物・・・?」
どこにルフィとの接点があるのか、どういった間柄なのか。
それすら定かではないが、ルフィはその人物に会う為にインペルダウンに侵入したのだ。
「そいつの名前は、ポートガス・D・エース。泣く子も黙る大海賊、白ひげ海賊団の2万態隊長を務める男だ。」
白ひげ、その名前にシンの目が見開かれる。
他の海賊の事をほとんど知らないシンであっても聞いた事のあるその名前は、誰もが知る世界最強の海賊の名を我が物としていた海賊だ。
「その男が海軍に捕われて、今まさに処刑されようとしている。」
ローの話をまとめるとこうだ。
インペルダウンに捕われたエースは、ルフィの到着を待たず海軍本部のあるマリンフォードに護送された。
そしてそこで処刑が始まった今、マリンフォードは海軍本部の総戦力とエースを救うべく集まった白ひげ海賊団とその傘下の海賊達による世紀の大戦争が巻き起こっていた。
その戦いも中盤を過ぎている、そんな今、インペルダウンに居たはずのルフィが大勢のインペルダウン脱獄囚を連れて今度はマリンフォードへと現れた。

「つまり今、お前の船長はマリンフォードに居る。」

ローの言葉に、シンが息を飲んだのがはっきりと分かって。
それを想像していたローでさえ、それと同時にシンの目が孕んだ鋭い光に気圧された。
「今、私は何処にいますか」
抑揚のない声は、焦りの現れなのだろう。
けれど極力冷静さを保とうとするシンの様子を、ローは驚いて眺めた。

てっきり、場所を言えばすぐに飛び出す勢いで動揺を表面化するのだろうと思ったからだ。
けれど目の前の少女は冷静に、自分の立ち位置を測ろうとしていた。
「お前は今、俺たちの船に乗ってマリンフォードの近海に居る」
なぜ其処にいるのか、その理由は言わなかった。
けれど目的地のすぐそばに居る事だけはシンに伝え、ローはシンの続く言葉を待った。
「・・・、」
けれどシンは、何かを躊躇っているようで次の言葉を発しない。
どうしたんだとローが眉間に皺を寄せれば、シンは言いにくそうに漸く口を開いた。
「私だけ、マリンフォードに近付く事はできますか」
「は?」
「船ごと近付けば、貴方達も危ないから。私だけ、近付く方法はありますか」
ここに来て、人を気遣う余裕があるのかと。
ローはそう言いかけて、シンの真剣な表情にその言葉を飲み込んだ。

「お前が行ったところで、何かできるのか」

そして絞り出したのは、その台詞だった。
恐らく実力はあるのだろう、シャボンディ諸島での世界貴族の護衛達との立ち回りを見ていたのでシンの実力の一端は少しは分かっていた。
そして死線も幾度も越えたのだろう事も、雰囲気や言葉の端々に感じていた。
けれど、見た目通りまだ少女とも言える年端の子供だ。
向かおうとしているのは数多の戦場を駆けた屈強な戦士達が入り乱れた世界最高峰の戦争で、そこにこの少女が紛れ込んだところで一体何が出来るというのだろうか。

その想いを込めた言葉を受け取ったシンは、再度冷静になろうとしているのだろう深呼吸をしてから、鋭い光を孕んだままの視線をローへと向けた。

「私は、ルフィに助けられたから。」

今度は私が、助けるんだ。

何が出来る、それに対しての返答はなかった。
けれど助ける、と。そう強くいったシンの言葉には迷いなど微塵もなく。

「・・・黄猿に言われた。義理を通せ、って。」
例え自分の意志とは関係なく、むしろ意志など無視して戦う兵器としてのみの存在価値だけで所属していた海軍。
助けられ、海軍から離れたと言っても、それは海軍から籍を抜いた訳ではない。
自分は未だ海軍に属した存在として名前が残っていて、それは消さなければ永遠に残る事になるだろう。
「逃げたって、ダメだ。逃げたら、私は一生“海軍”って名前に束縛され続ける。」
私は海賊だと、
「私は、ルフィの仲間なんだって、」
言わなきゃ、いけないんだ。

黄猿と対面し、何も出来なかった。
ただ恐怖に足がすくんで、皆が消えていく様を見るしかなかった。
そんなのは、
「無力なのは、もう嫌だから。」
シンの言っている言葉の意味を、ローは殆ど理解できなかった。
分かったのは、シンが元々は海兵であり、それなのに海賊と一緒に居る事。そしてそれはシンが望んだ事であり、シンはルフィ達と中まである事を選んだという事。
たった、それだけだった。
「お前の過去がどんなものかは知らねえが、あの戦場に行った所で死ぬだけだぞ」
「・・・大丈夫、寿命じゃなきゃ死なないから。」
シンの言葉に、ローの背筋がゾッと凍る。
ただの強がりとは到底思えない、本当の事だと言わんばかりのシンのその宣言は“死の外科医”の異名を取るローでさえも底知れぬ闇を感じていた。
「・・・近付けるのは海軍の包囲網の外までだ。それ以上は行けねえ。」
「っ!!」
もはや止める事は不可能だと理解したローは、諦めたようにため息を吐き出しながらシンにそう告げた。
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