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サヨナラだけが人生だ ~合縁奇縁~

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
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死の外科医と不死の少女

それからどれ位の時間が経ったのか。
しっかりと睡眠をとり幾分体も楽になったのだろう、シンはゆっくりと瞼を開きながら目を覚ました。
その頃にはもう船員達の姿は室内になく、遠くで波の音が聞こえる程度で他に音はない。
僅かな明かりのみを灯して薄暗くなった室内を寝たままで一通り見まわしたシンは、ゆっくりと上体を起こした。
「どれくらい、寝てた・・・?」
小さく呟いた声に返事は返ってこない。
何時間、何日経ったのか、今が朝なのか夜なのか、窓のない室内ではそれを察知する事はまるで出来ず、シンは状況を飲み込むべく情報を仕入れようと、ベッドから立ち上がろうと体を動かす。
その時だ。
「起きたのか」
ギイと音がして開いた重厚感のある鉄の扉。
そこに立っていた男は見覚えのある人物で、シンはベッドの淵に腰を掛けた状態のままで視線をそちらに向けた。
「あ、」
「具合は?怠さは残ってねえか?」
質問に首を縦に振る事で答えたシンにその男、ローは近付くと手を伸ばしてシンの額にその手の平で触れる。
「熱は下がったか。」
シンの熱が下がった事を確認したローの口調は心なしか安心したような響きを帯びていて、それにシンの表情がここに来て初めて綻んだ。
「見た目と違って、優しいですね」
「は、?」
そのシンの言葉に、そして表情にローが動きを止めて硬直する。
焦りと不安、そして具合の悪さを全面に押し出していたシンのどこか危うげな表情ばかり見ていたローからすれば、まるで花がほころんだような笑みを浮かべたシンのその表情はぐ、と心の隅を握りしめた。
そして記憶にある限りではほぼ言われた事のない「優しい」という台詞に、ローは思考をフル回転させて返事を探した。
なんとか取り繕わなければ、見せた事のない間の抜けた醜態を晒してしまいそうだったのだ。
「・・・まだ朦朧としてんのか、お前は」
そしてなんとか絞り出したのはその言葉で。
自分の意志とは関係なしに上がる頬の熱を感じたローは、シンから視線を外す。
それが照れ隠しなのだと気付いたシンはクスクスと笑い声を漏らして笑うばかり。
ルフィ達と離れ離れになった記憶がなくなった訳ではないものの、体調が良くなったことにより思考に随分と余裕が出来たのだろう。それを理解し、シンは小さく深呼吸をするとベッドから立ち上がりローに近付いた。
「えっと、名前、」
「・・・トラファルガー・ロー、だ」
「ロー、さん?」
そしてローに名を問い、それにローが返答した事で再び微笑んだシンはローの名を呼ぶ。
呼ばれたローはなんだと言わんばかりの視線をシンに向け、シンはそんなローの視線を真っ直ぐと見返した。
「本当に、助けてもらってありがとうございました」
「海賊が、海賊に礼なんて言ってんじゃねえよ」
素っ気ない言葉さえ照れ隠しである事が分かるような動揺した表情をローが浮かべるものだから、シンは更に笑みを深くして。
それが面白くなかったのだろう、ローは忌々しそうに舌打を漏らす。
「・・・なんでお前みたいな奴が海賊と、しかも麦わら屋なんて大問題児と一緒にいやがるんだか」
「偶然・・・っていうか、奇跡、ですかね」
ふ、と。シンの笑みに影が落ちる。
それにローは気が付いたものの、踏み込む事をしなかったのはこれ以上深入りしたら何が何でもシンを自分の船に置きたいと思ってしまう事に本能で気づいたからだ。
シャボンディ諸島でルフィに向かいシンを寄越せと言ったあのセリフは、冗談でありながらも本気も確かにあったのだ。
自分にもあるような「暗い過去」を持っているのだろうと感じたシンを、気に掛けていた事に間違いはないのだから。
けれどそれは無理矢理に手に入れたのでは意味のない物である事もローは分かっていて、自分の気持ちや衝動を何とか隠そうとした結果がシンの言葉に反応しないという事に繋がったのだ。

そんなローの気持ちなど、シンは知る由もない。
言葉を止めたローをシンは不思議そうに見上げていた。

「・・・そういえば、」
と、そんな雰囲気がいたたまれなくなったのだろう、ローが思い出したかのように話題を変えようと声を発した。
「麦わら屋の居場所が分かったぞ」
その言葉に、シンの顔色が一気に変わる。
笑みを消し、目を見開いたシンにローは内心安堵の息を漏らす。
これで意識が別の方向へ向いたと、ローは言葉をつづけた。
「麦わら屋はお前たちと離れ離れになった後、一人でインペルダウンに侵入した。」
どこから情報を仕入れたかと聞かれれば、闇の世界の情報だから確実と言い切れるものではない。
けれど何をやるにも派手な人物だ、それとなしに聞こえてきた“噂”にはどこか信ぴょう性があった。
「海底監獄、インペルダウン。笑い事じゃねぇ大犯罪者達が収監され、一度入ったら次に外に出るのは屍になった後だって噂の大監獄だ。何でそんな所にわざわざ侵入したかなんざ想像もつかなかったが、もう一つ、情報が入ってきた。」
ローを食い入るように見つめながら、続く言葉を待つシン。
自分だけに向けられたシンの視線に内心悪い気がしないローは、それを悟らせないように口元を怪しく弧を描かせながらシンの目を見返した。
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