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魔法科高校の暴女王《メルゼシア》

原作: 魔法科高校の劣等生 作者: ジョナサン
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入学編9

 とっさに受け止めた竹刀がしなり、腕がしびれる。沙耶香は力任せに切り返すと、すぐさま距離をとった。
 重い一撃だった。紫がもう少し体格に恵まれていれば、そのまま押し切られていただろう。

「くっ!」

すぐさま繰り出される追撃を、今度はどうにか受け流しながら、沙耶香は完全に剣士の思考に切り替わっていた。

「速いな。それに剣を使い慣れている」

「こんな時でも驚かないんだ。すごいよ、あの二人」

 思わぬ展開に周囲がざわめく中、達也は冷静に紫の技量を値踏みする。エリカはそんな達也の様子に噛みつきながらも、食い入るように、むしろ食らいつくように二人の武闘を睨んでいる。本能むき出しといった有り様だ。

「夜科は、技は少ないが剣が伸びるな。受け止め続けるのは厳しそうだ」

「あら、じゃあ達也くんは夜科が勝つと思ってるの?」

「違うのか?」

 エリカがにやりと笑む。

「ふっふっふ、さすがの達也くんでも、試合の魔力までは見抜けないか。まあ見ていれば分かるよ」

 沙耶香の反応、そして試合の運びはまさに熟練のものだった。遠間からではすぐに間合いを詰められる。ならばぶつかったところでつばぜり合いに持ち込み、機動力を殺すまで。身長差で押さえつけ、体勢を崩したところで引き面を狙う。
 泥臭いやり方だが、これなら試合を優位に運べる。紫は下がろうとするが、そこは沙耶香も慣れたものだ。試合場の端に追い詰めて、実質的に閉じ込めてしまう。

(ちょっとずるいけど、ごめんね夜科さん。私も負けるわけにはいかないから!)

 角に追い詰めたところで一気に上から圧をかける。紫の脚が崩れた。沙耶香はすかさず剣を払って面に打ち込もうと――
 抵抗が消失する。前のめりにならなかったのはほとんど反射で振り向いたからだ。後ろにはもう下がりようがない。後は横だけだ。
 そして事実、紫はすでに回り込んでいた。重心の操作のみでの高速移動。

「縮地か」

 達也がつぶやく。
 剣は同時に打ち鳴らされた。紫は胴。沙耶香は小手。

「相打ち!?」

 観戦していた他の新入生から驚愕の声が上がる。

「壬生先輩が早い」

 達也の指摘通り、旗は沙耶香の側に上がった。決してひいき目ではない。音がほぼ同時ということは、理屈で考えれば距離の近い小手の方がわずかに早いということになる。とっさに狙いを変えた沙耶香の判断力が卓越していた。

「経験、というよりルールの理解の差ね。あの状態なら反則貰ってでも場外に逃げちゃえばよかったのよ。……でもあの子ほんっと強いわね。うちの道場でもあんな動きできるのは何人いるか……」

 沙耶香の勝利。それは衆目の一致するところだ。紫も判定への不満などおくびにも出していない。
 だが沙耶香の表情は複雑だった。確かに手ごたえはあった。実践ならば骨を断っていただろう。しかしあの強烈な胴。内臓から背骨までを叩き割るには十分な気勢だった。真剣勝負なら死んでいたのは自分だ。
 だが膿を吐きだしたような爽快感もある。規制された範囲ではあるが、共に全力を尽くしていた。その上での勝敗など、もはやついででしかない。
 久しぶりの気持ちに、沙耶香は感謝の気持ちを伝えようと紫の方へ歩き出す。

 しかし、横入りしてきた闖入者によって、爽やかなスポーツの舞台はややこしい動乱の渦に飲み込まれたのだった。

「やるじゃねえか、ちっこいの。どうだ、剣術部に入らねえか?」

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