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半透明

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: いいち
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鶴丸


顔から血の気が引いていくのがわかった。
咄嗟に手を隠そうとするも、中途半端に服を脱いでいるせいでそれも出来ない。
下手に動けば、衣類がずりおちてしまう。

「えっと…これは…その…。」

なんとか言い訳をひねり出そうとしても、混乱した私の頭では上手く言葉が出てこない。

その時、少し離れたところから数名の話し声が聞こえてきた。
おそらくこっちに近づいてきている。

他の男士にまで知られる訳にはいかない――。

そう思った私は、呆然と立ち尽くす鶴丸を部屋に引きずり込み、襖を閉めた。

襖の前に立ち、鶴丸の逃げ道を塞ぐ。

「……。」

「……。」

ここからどうしよう…。

正直、何も考えていない。
今回のような事故がいずれ起こるかもしれないとは想像しても、その先のことまでは考えていなかった。

口封じ?
どうやって?

頭の中でぐるぐると自問自答していると、パサリと上から衣を掛けられる。
そういえば、まだ着替えの途中だった…。
肌蹴た衣類が見苦しかったのであろう、鶴丸はこちらを見ないように自身の上着で私を包む。
顔が若干、赤く色づいている。
主がだらしないと怒っているのだろうか…。

「…その手はどうしたんだ?」

咳払いをひとつして、鶴丸から話を切り出す。

こうなったらもう全て説明するしかない。
神様相手に自分ができる抵抗など、もともとないに等しいのだから――。

そう思い、事の顛末を包み隠さず話した。
とは言っても、自分でもどうなっているのかはよく分からないので、説明になっていなかったかもしれない。

「…ふむ、なるほどな。」

それでも鶴丸は理解してくれたらしい。

「鶴丸様…。このことはどうかご内密に…。」

説明したは良いものの、彼が秘密を守ってくれるかは甚だ疑問だ。
お調子者な所がある彼は、面白い話題は皆と共有しようとするのではないか――。
彼からこの秘密が漏れれば、この本丸は大パニックだ。
特に初期刀の加州や過保護気味の長谷部は、原因究明を急げと時の政府に殴り込みに行きかねない。

「ん?主のためだ、もちろん秘密にするに決まっているだろう?」

私の疑念をよそに、鶴丸は不思議そうな顔をこちらに向けてくる。
疑ってしまったことに罪悪感が湧くほどのキョトンとした顔だ。

「それにしても、いつ手が透けるか分からないのに隠しもしてないのは少し迂闊じゃないのか?」

「…その通りでございます。」

…耳の痛い話だ。
隠すという発想自体がなかった。
日々の業務で忙しいとはいえ、手が透ける対策として不十分であったのは間違いない。

「まったく…。主は抜けているところがあるからな!俺じゃなければどうなっていたか分からないぞ!」

抜けていると思われていたのか…。
若干ショックを受けるが、否定できない自分が悔しい。
審神者として認められるようにはなってきたが、今回のような咄嗟の事態にはうまく対応できないのは事実だ。

というか、「俺じゃなければ――。」といっていたが、鶴丸は本丸内で見つかりたくない刀剣トップ3には入っている。
これが、光忠や薬研であれば、秘密を守りつつそっとフォローしてくれたであろう。
バレるならそのあたりの男士が良かった…。
そんなことを考えていると、鶴丸がとんでもないことを言い始めた。

「主だけじゃ不安だからな!秘密を守り通すために、俺が協力しようじゃないか!」

「えっ!」

「…なんだ、その不安そうな顔は…。」

思わず本音が顔に出てしまったようだ。
鶴丸は、ジトーっとした目でこちらを見つめてくる。

「いや、その…。」

普段の行いが悪すぎて、下手に頼り辛い…。
むしろ、派手に秘密をばらしてしまいそう…。
先日も、大倶利伽羅が黙って子猫を拾ってきてしまったことを本丸中に盛大にばらしてしまっていた。
結果としては丸く収まったが、今回はばらされるわけにはいかない。

「…鶴丸様は特に何もしなくて大丈夫ですよ。次からは気をつけますし…。」

ただ切実に何もしないで欲しい――。
そう思っていたのが伝わったのか

「俺じゃ、役不足だと?」

「いや、そんなことは…。」

日本人の悲しい性…。
上手く断ることが出来ず、相手を不機嫌にさせてしまう典型的なルートに入ってしまった。
鶴丸はとても不満げな様子だ。

「じゃあ、何が不満なんだ?」

「えっと…。」

正直に言えるだけの度胸は私にはない。
なにも答えられず、ただ部屋の中に静寂が漂う。

「…君がそんな態度ならば俺にも考えがある。」

不穏な空気を感じ取る。

「主は秘密をばらされたくないよな?」

「も、もちろんです…。」

鶴丸はズイッとこちらに近づき、襖に手をつく。
私の逃げ道は塞がれてしまった。
ここまで近い距離で顔を見たことがなかったため、思わずひるんでしまう。
普段、明るい笑顔を湛える顔の面影はない。
美人が凄むとこんなにも迫力があるのだと生まれて初めて知った。

「じゃあ、手が透けなくなるまで俺を近侍にしてくれ。でないと…わかるよな?」

…もう完全に恐喝である。
先程まで、主の為に〜と言っていたのは何だったのか…。

私に残された答えはひとつしか無かった…。
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