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半透明

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: いいち
目次

戦禍

銃声や刀のぶつかり合う音が至る所から聞こえるーー。

鶴丸は大丈夫だろうか…。
そう思いながらも、私は次元移動装置の近くで非難の誘導をしていた。
審神者や刀剣男士が唯一買い物出来るこの街には、多くの人が一手に集まりすぎている。
そこを狙われてしまったのは痛い。
審神者は基本戦場には出ず、指揮を執る。
まれに戦場に出たとしても、経験が豊富なものに限るし、戦に備えた上での出陣だ。
ここに居るものの多くは、戦場は未経験であり、丸腰。
混乱は避けられなかった。

「きゃっ!」

すぐ側で私と同じくらいの年齢の女の子が転んだ。
装束から覗く顔以外の部位に包帯を巻いている。
巻いた包帯は泥に汚れ、頬には血が滲み、痛々しい。

「大丈夫ですか?」

その子の傍によると、足首が腫れていることに気づく。
見たところ捻挫だろうかーー。
これでは歩くことが出来ない。

「大丈夫です。もうすぐ薬研が帰ってくるので、それまで待ちます。」
「…そうですか。では、私と一緒に待機しましょう。その方が安全です。」

口では大丈夫と言ってはいたが、その目には不安が浮かんでいる。
所作から察するに審神者になりたてだと思われる女の子を方っては置けない。
非難の誘導自体は良い流れが既にできている。
もうすぐほとんどの避難が完了するだろう。
もうこの場に私がいなくても大丈夫だと判断し、私たちは避難の邪魔にならないように、少し離れたところに移動した。
肩を貸して移動するあいだ、私はあることに気づいた。

「その手…」

転んだ拍子に緩んでしまったのだろう。
包帯の隙間から見える彼女の手も透けていたのだ。
透けていることに気づかれた彼女は焦り始める。

「慌てなくて大丈夫です。実は私も…。」

私は手袋を外してみせる。
同じ境遇であることを知った彼女はホッとした表情で

「これって私だけではなかったんですね…。」

と話した。
聞くところによると、審神者になってまだ2週間ほどで、これを政府に報告もしていないそうだ。
そのため、この現象が少数の審神者に見られていることを知らなかったらしい。

そして何より驚いたのが

「そんなに進行しているのですか…。」

袖をまくり、包帯を一部解いて見せた彼女の腕全体が透けていた。
透ける範囲は徐々に広がり、現在は首から上以外はほとんど透けているらしい。

「ここ数日で一気に進行してしまいました…。」

悲しげな表情を見せた彼女は、思い切り首を振る。

「いえ、落ち込んではいけませんね!仲間がいると知れただけで嬉しいです!時の政府も調査中だということは直ぐ解決策も分かるでしょう。」

「それに、薬研たちもきっと安心しますよね!まだ出会って短いですが、このことを知っても彼らは私を精一杯支えてくれました。私が諦めてちゃいけないですよね!」

明るく努めようとする彼女は、きっと男子たちにも好かれているのだろう。
長年、審神者をやっていて未だに関係が築けていない自分が恥ずかしくなった。

「そうですね…。私も貴方を見習わなければいけませんね。」


そんな話をしていると、急に背筋に嫌な感覚が這う。

咄嗟に結界術を施すと、頭上から時間遡行軍の重い一撃が結界を揺らす。
太刀を持ったそれは地面に降り立ち、休む間もなく攻撃を仕掛けてくる。

「…まずいですね。」

結界術が得意とはいえ、持久戦に持っていかれるとこちらが不利だ。
この場に時間遡行軍が来たということは遅かれ早かれ次元移動装置も破壊されるだろう。

「…大丈夫です。そろそろ薬研が帰ってくるはずです。」

私の鶴丸は戦火の中心にいるはずだから、まだこちらには来れないだろう。
索敵が得意な短刀であれば、ここの場所をすぐに見つけられる。
今は薬研が来るまで何とかこの場を凌ぐしかない。

何度も加えられる攻撃に結界がゆらぐ。

まだ…。まだ耐えられるーー。

吹き出す汗と上がる息を抑えられなくなってきた、その時ーー。

ドスッ!!

「待たせたな!大将!」

薬研が太刀に奇襲をしかけた。

薬研に気を取られ、太刀の攻撃が止む。

助かったーー。

しかし、顕現して数日の薬研では敵を一撃では倒しきれない。
太刀の反撃が始まると、戦況は再び不利になった。

「くっ!」

薬研が重症となるのにそんなに時間はかからなかった。

「…正念場だな。」

息も絶え絶えな薬研は、このままでは破壊されてしまうーー。
私はまだ簡易結界の札を持っている。
少しの間ならまだ耐えられる。
そう判断し、咄嗟に自分たちにかけていた結界を一瞬解き、薬研に結界を張った。


…それがいけなかったーー。


「薬研!」

居てもたってもいられなかった彼女が薬研に駆け寄ろうとする。
敵がそれを見逃すはずもなくーー

「大将ーー!!」

気づいた時には、彼女の胸を太刀が貫いていた。

口からゴポリと吹き出る鮮血。
太刀を抜かれ、崩れ落ちる身体。

全てがスローモーションに見えた。

ドサリと音を立てて、その場に倒れた彼女はもう動かない。

簡易結界の札を使い、私は彼女に駆け寄る。
治癒術を施すも、彼女の呼吸が戻らない。
即死だと見てわかった。
だが、頭が信じようとしない。
心のどこかで無駄だと分かりながらも、必死に治癒を行う。

「貫かせてもらうぜ!!」

薬研の真剣必殺が、敵の胸を貫く。
その攻撃で、敵は霧散して消えてしまった。

フラフラしながら薬研は、横たわる彼女に駆け寄る。

「おい…大将…。」

薬研は彼女の頬をペチペチと叩く。
彼女から返事はない。

「なあ、返事をしてくれよ大将…。」

薬研は彼女の頬に手を当てる。
彼女からの返事はない。

「薬研…。彼女は…もう…。」

治癒術で体の傷は塞がっても、彼女の心の臓は動かない。
死んでしまった。
私の判断ミスで死なせてしまった。

そして、彼女の身体は少しずつ透け始める。
身体だけでなく、身につけた衣類も透けていき、ものの数秒で消えてしまった。
まるで最初から彼女が存在しなかったようにーー。
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