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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
目次

四十九章 どうにか収まったけれど…

 あっさりと諸悪の根元の終演を知ってから数日、地上での生活をはじめようと再建が始まった。

 そんな中、ダジュールは一度レイバラルに戻る決意を固める。

 カーラの現状、レイバラルが犯した罪はレイバラルの民であれば知っていなくてはいけないことだと断言した。

 それからどうするのかは臣下とともに相談して決めるという。

 はっきりと決まるまではこちらの再建は手伝えそうにないことも告げた。

 マリアンヌとルモンドはそれが正しいとダジュールの決めたことに同意をした。



「やはり、行くのですね」

 ダジュールの出航が明日になった日の晩、クラウディアはこっそりと荷物をまとめ出て行こうとしていた。

 その背後から声がし、立ち止まる。

 振り返るとマリアンヌがたっていた。

「いいのですよ、あなたが決めたことなら。ここはわたくしがおります。王の行方も調べなくてはなりませんし、やることはたくさん。それでも子の旅立ちは応援するのが母の勤めと思っています。わたくしのことを母と思ってほしいとはいいません。ただ覚えておいてください。ここはあなたの祖国であり帰る場所のひとつでもあること。もしつらいことがあればいつでも助けを求めてください。カルミラは困っている人を放っておくような人たちの集まりではありませんから」

 クラウディアはただ黙って彼女の言葉を聞く。

 やはり「お母様」というべきなのだろう。

 しかし、まだいえない。

 それはわだかまりではなく、気恥ずかしさでもない。

 まだ娘として向かえ会うには至っていないと思うから。

 妻として王妃としても中途半端。

 それは互いに利害だけで繋がった偽りの夫婦だからだ。

 だからクラウディアは思う。

 本当の夫婦になれたら、本当の王妃になる覚悟ができたら、その時に「お母様」と言おうと。

 だから今は振り返らないし、なにも言葉はかけないでゆくことを決めた。



※※※



 カルミラを出た船がレイバラルへと向かい出航する。

 もう引き返せないほど出てからクラウディアはダジュールの前に姿を現す。

「なっ、おまっ、なにやってんだ! おまえは残れって。なんで密航みたいなことをしてついてくる?」

「だって、一応王妃だし。ふたりで戻らないとダメでしょう? それに自分に向き合わないといけないような気がして。あなたの夫、レイバラルの妃。偽ったことは謝らないと。それでもし許されるなら、わたしはあなたと一緒にいたい。それがただの夫なのか、それとも王妃なのか、まだわからないけど」

「クラウディア、それでいいのか?」

「いいの。だってね、やっと黒ダイヤが揃ったんだもの。それだけでいいじゃない。ああ、ほら。あなたも黒ダイヤの持ち主の魂を受け継いでいるわけだし、わたしたちは一緒にいた方がいいんじゃない? それとも、わたしではいやなの?」

「いや、イヤってことはない。むしろうれしい。……本当に俺でいいんだな? 継ぎはないぞ。もう離さないし離縁にも応じない」

「うん。でも、里帰りはする」

「その時は俺もいく。マリアンヌ様には正式に挨拶しなきゃいけないからな。おまえ、その時はちゃんとお母様って言ってやれよ?」



※※※



 それから時は過ぎ、そう十年ほど経っていた。

 カーラ帝国崩壊は各国に衝撃を与えたが、特定の国だけが大きな力を持つのはいかがなものかと話あうことになる。

 昔のようにひとつの国がいいのではないか、ならばレイバラルに……という意見も出た。

 しかしダジュールはそれを断る。

 ダジュールはカルミラの国のあり方ことが理想ではないかと思い、自国の臣下や貴族を説得し、カルミラと融合することになる。

 主権はカルミラで、その初代にマノアンヌが、相談役にルモンドがなる。

 荒れたかーらから逃げてきた者を受け入れてもいるので、多種民族国家への道を歩み始めた。

 だがそこにダジュールとクラウディアの姿はない。

 ふたりはカルミラ王の行方を捜す旅を選択したのだった。

 中にはもう亡くなっているという者もいれば、あれは替え玉で本人は他国に逃げたという者もいる。

 どちらも信憑性があるといえばあるし、ないといえばない。

 ならばこの目で確かめればいい。

 世界は広いのか狭いのかはわからないが、たとえ見つけることができなくても旅をしたことが無駄で終わるとは思えない。



「そういうことだから、わたしたちは行くね、お母様」

 初めて口にした「お母様」という響きに胸が熱くなる。

 言われたマリアンヌも大きな滴を流していた。

「養父さん、ルモンド様、母をお願いいたします」



 旅立つふたりの影にもうひとつの影が重なる。

「わたくしもご同行させてくださいね、リリシア様」

「タリア?」

「おふたりだけでは心配ですから。そもそも王のお顔、ご存じですか? ああ、ご心配なく。おふたりの邪魔はいたしませんので」

 タリアはこうもいう。

「ご安心ください。頃合いを見計らって撤退いたしますから」

 タリアはクスッといたずらっぽく笑う。

 そんな三人の影を追いかけるようにもうひとつの影が重なろうとしていることにもまだダジュールだけが気付いていない。

 タリアとクラウディアは、アーノルドとダジュールの再会を邪魔してはいけないと、少しだけ距離をおく。

 こうして四人の新しい旅が幕を開けたのだった。
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