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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
目次

四十六章 地中居住

 ひと目でマリアンヌの素性を見抜いた男は、かなり年配の男であったが、神職であり生涯を神に捧げただけのことはある。

 どこか人間離れした独特な雰囲気があり、その雰囲気はとても安心できるものだった。

 男の案内で奥へと進むと、かつてはそこが儀式の間であっただろうというような場所にでた。

 しかしそこは儀式とは縁遠い場所へと変わり果てていた。

 いや、果てていたという言い方は不自然だ。

 神であればそのような使い方をしても許してくださるだろう。

 広いその場所にはテント小屋のようなものがたっていた。

 そう、住居へと変わっていたのだ。

 男はさらに奥へと進む。

 そこは穴が掘られ、崩れないよう周りを固めた通路であったり居住であったり。

 ありの巣のような住処がとこ狭しと密集していた。

「これは想像以上だな。地下で暮らしているらしいという情報は得ていたが」

 あまりの酷さに言葉が吐き捨てられる。

「これでもよくなった方ですよ。地上を捨て地下に入った時は、錯乱する者もいて、共同生活など無理ではないか、いっそのこと外にでてほかの土地へと移ろうかと何度も話し合われてきました。その度に、風の便りでもしかしたらリリシア様がご生存かもしれないとお聞きし、あと一年、もう一年と延ばして二十年です」

 さらに歩き進めると、

「ちょうどこの上あたりが玉座でございます。ここから多くの民が逃げはいってきました。敵兵の追っ手の目をごまかすために、その出入り口を塞いでしまいましたので、あの入り口を見つけるのは大変でしたでしょう」

 ほかにも見つけられそうな出入り口はすべて塞いだと言われる。

 食料は夜になってから数名で探しにでたり、魚を捕獲したりした。

 しだいに地下の中で育てられる野菜などを栽培して自給自足の生活になる。

 希に同志が戻り生活品の差し入れがあったが、その行為は長く続かずに連絡が途切れたとも聞かされた。

「それは見つかって殺されたのでしょうね」

 タリアが悔しそうに言う。

「はい、そうだと思います。それでも敵がここを再び攻めることはありませんでしたので、みなさん、口を割らなかったのでしょう」

 しばらく歩くと、

「このあたりは市街地でした。ここを掘ることにしたのは、その方が物をとりやすくなると考えたからです」

 そしてそのひとつの扉をあけると、今まで見かけなかった人が集まっていた。

「司祭様」

「大事ない。この方々は我々が長年待ち望んだ方々です。ご記憶がある方はよくお顔をご覧なさい。マリアンヌ王妃のご帰還です。そしてこちらは黒ダイヤの正当な持ち主でもあるリリシア王女。生きているという情報を信じ、待った甲斐がありましたね」

 しばしの沈黙の後、割れんばかりの歓声があがる。

 王妃万歳、王女万歳、今日がカルミア再建の出発日だと。



※※※



「さて……」

 再会もそこそこに司祭と呼ばれた男は静寂にと同志を黙らせる。

「喜んでばかりはいられませんな。目的もなくご帰還されたわけではあるまい」

 そこでそれぞれが包み隠さず素性をあかすと、ダジュールとルモンドの素性でざわつき、そしてケイモスの経歴でもざわついた。

 さらにクラウディアがレイバラルの王妃になっていたことで嘆きのざわつきに変わる。

「王女を責めてはならぬ。帰れる国がなかったのだ、であれば生きていける地で生きるしかあるまい」

 司祭の言葉をうなだれるように聞く姿は、どうしようもなかったと思うクラウディアにとっても痛々しく目に映った。

「実は神職者の長にしか知らされていないことがある。これは代々代替わりに口答で受け継がれるものであるが、こうして主要である者たちが顔を揃えているのだ、知る権利があるであろう。とくにリリシア様は黒ダイヤの正当な持ち主、知らなくてはなるまい。だが、マリアンヌ王妃は薄々知っておられたようだ。違いますかな?」

「はい。わたくしはすべてを知った上で、自分の使命を確信しこの国に嫁ぎましたの。わたくしは新たな黒ダイヤの後継者を世に出してあげなくてはならなかったのです」

「どういうことだ、マリアンヌ。余は知らぬ」

「ルモンド様がカルミラに嫁ぐようにと命を出さなければ、わたくしは自らそれをお願いするつもりでした。この出来事はすでに決められていたことなのです。そうですわね、司祭様」

「左様でございます」

「けれど、他言はできませんでした。知ってしまい、その流れが変わってしまっては困るからです。けれど、カーラの裏切り、あの男のクーデターは想定外でした」

「知っていれば神からのお告げとして王に進言しておりました」



 司祭とマリアンヌの口から語られる真実は、何千年も前、まだこの地がひとつの大陸であったころからに遡る。

 自分たちが済むこの土地は無限に広い宇宙という空間のほんの些細な存在でうることすら知らなかった時代、生命が生きていけるこの星には広いひとつの大陸しかなかった。

 そこで人と生き物は協力しあいながら自然の苦境にくじけることなく暮らしていたのだった。

 しかし人が増え生き物が増えていくと、それぞれ気の合う者たちだけで集落ができ、村や町に発展していくと、統治者を名乗るものが出てくる。

 その者は人を従え、自分の土地を広げる優越感から抜けられなくなり、国というものができてしまった。
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