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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
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四十二章 戻らない時間

 ダジュールとクラウディアがそんな話をしている頃、タリアとマリアンヌもまた似たような話をしていた。



「よろしかったのですか、リリシア様と同室でなくて」

「それを言わないで、タリア。わたくし、母として何かが欠けているのでしょうか。わが娘が愛しくて抱きしめたい気持ちがあるのに、怖いのです。あの子に拒まれたらと思うと」

「それは考えすぎかと思います。リリシア様はずっとマリアンヌ様は生きていないと思ってお育ちになりました。わたくしたちもまた、リリシア様の生存は知りませんでしたから、お互い様でしょう。もちろん、生きていてほしいと願っておりましたが、確証はありませんでしたから」

「ええ、本当に。わたくしはずっと生きる屍でしたから」

「薬で成長を遅らせていただなんて、なんと罪なことを……」

「それでも生きてはいましたので、人の会話は聞こえていましたのよ。あの男の自分本位な考えも……まさかルモンドを裏切る側近がいたなんて」

「ルモンド様のことはダジュール様やケイモス殿がよきに計らってくださると思います」

「ええ、そうであるとよいですわね。それでね、タリア。あの、ダジュールという青年のことなんですけれど」

「リリシア様の旦那様ですわね」

「え、ええ……」

「気になります?」

「それはまあ……」

「レイバラルの若き王様ですのよ」

「そのようですわね。あの子、王妃なのですね」

「ご心配ですか? マリアンヌ様のような思いをされるのでは……と」

「国の母になるということは、常に国のことを民のことを考えなくてはなりません。時には我が子、時には夫を別の見方をしなくてはなりません。そんな思いをさせたくないと思うのは、わたくしのわがままでしょうか」

「親であればそう思うものではないでしょうか。それと同時に、よい王妃、国民から好かれる王妃であってほしいと願うものです。結果的に、我が子が幸せであればよいと思うのではないでしょうか。マリアンヌ様はそのようなお気持ちをリリシア様にお持ちなのですわ。接していた時間など関係なく、マリアンヌ様はリリシア様の母であるのですわ。難しく考えることはないと思います。マリアンヌ様からリリシアとお声をかける、それだけでよいのですよ。きっと」

「そうですわね。タリアのいうとおりですわ。ですが、簡単そうで一番難しいのです。本当に、人の感情とは厄介なものですわね」

 マリアンヌの言葉にタリアは静かに頷くにとどめた。



※※※



 もうひと組、ルモンドとケイモスも因果関係がないとも言い難い。

 そもそもケイモスがカルミラに行くことになったのは、ルモンドからの密命を受けたからだ。

「久しいな。お主、ずいぶんと毒気が抜けた顔をしているな」

 ルモンドは二十数年ぶりに再会したかつての部下を見てそう声をかけた。

「それは帝王も同じでございましょう。しかし、瞳はまだ生き生きとしてらっしゃる。諦めてはいないのですね?」

「当たり前だ。あのまま囚われ身であったとしても希望は捨ててはおらぬ。捨ててしまうということは民を裏切り、属国の信頼を裏切ったままなのだからな」

「まさか、帝王が囚われていたとは」

「それは余も以外であったが、その結果、希望はあると確信した。あの男は力を固執することに拘りを持っている。力があれば手にできぬものはないと思っておる。確かに、力があけば手に入れやすくはなるが、手に入れられないものもある。それに、失うものもあることを知らなさすぎる。恐怖政治は意図も簡単に支配できるが、一度ほころびがでれば修復は難しい。ねじ伏せられていた民たちが立ち上がった時の恐ろしさを知らなさすぎる」

「帝王はそれを恐れ、改革を試みたと?」

「さあ、どうであったかな。だが、改革も急げば足下をすくわれるのだと身を持って知った。と同時に大切なものを苦しませてしまった」

「マリアンヌ様ですね。そこまで好いておられるのでしたら、なぜ他国に嫁がせたのです?」

「お主と恋語りをすることになろうとはな。そういうお主はなぜ余を裏切った?」

「裏切り、になるのでしょうね、やはり。ですが、それがマリアンヌ様の願いでもあったからです。では答えになりませんか?」

「いや、よい。この目であれの娘を見る日がこようとは、夢にも思っていなかったからな。お主には大儀であったというべきであろうな」

「ありがとうございます」

「して、お主からみたレイバラルの若き王はどうみる?」

「かつての敵国が気になりますか?」

「その言い方には語弊があるな。確かに先代までは敵対していたが、余は一度としてレイバラルとことを構えたことはないぞ? 停戦という協議までは至っていなかったが」

「緊迫した数年でした」

「相手が攻めてこないのであれば後回しにしてよいと思っていたのだ。他国への関心より自国の発展を優先したのだが」

「しかし、であれば、もっと正攻法でカルミラに協力要請するべきでしたな」

「それに関してはまったくだと言うしかあるまい。余も若かったのだ。そして力で手に入れられないものはないと思っていたところがある。属国は我が帝国のいいなりであったからな」

 それが当然という長い流れの中で、それが間違っていたと気づくはずもない。

 誰かが反旗を翻し、立場が変わらないかぎりは。

 それがまさか、身内からの裏切り、クーデターを起こされて失脚した後に知るとは……と、ルモンドは苦笑いをした。
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