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怪盗姫と黒ダイヤ~姫は復讐に濡れる~

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 十五穀米
目次

十七章 捜し人タリア

「ああ、もうヒヤヒヤしたわ」

 離れの屋敷に案内され、人払いをしたのち、ふたりきりになれるとクラウディアは大きく肩の力を抜いてボヤいた。

「まったくだ。まさかクラウディアの髪に固執してくるとはな」

「ここでは後ろ盾ではなく養父母ってことなのね」

「そうなってしまったな。だが、それ以外思いつかなかった」

「ううん、助かった。でも、まだ安心できないわ。王宮内に入れないことには」

「ああ、そうだな。だが、やっと陸地に降り立てたことに幸せを感じるよ、俺は。帰路がまた船旅だと思うと気が重いが」

「それはまたその時に考えましょう。まずは人捜しをしたいのだけど、いい案がないかしら?」

「人捜し?」

「養父さんからカーラに入ったら捜すようにと言われたの。タリアという女性」

「もしかしてそれが信用できると言っていた人物か?」

「うん、そうみたい。ねえ、この屋敷から出てはダメとは言われなかったよね?」

「ああ」

「わたし、ちょっと散歩してこようかしら」

「は?」

「朝と夕方の散歩は日課なんです、とでもいえば怪しまれないと思うの」

「そうかもしれないが、ひとりでは危険だ。俺も行く」

「王と王妃が揃って散歩っておかしくない?」

「そんなことはないだろう。そうと決まれば支度して出るぞ。夕方といえばもうすぐだ」

 部屋にある時計を見れば確かに夕刻になりかけていた。

「ここはこの時間でも外は明るいのね」

「世界には、昼が長い国、夜が長い国が存在するらしい。もう少しカーラについて知っておくべきだったな」

「だとしても、知っている人は限られているから」

 あまり聞き過ぎれば怪しまれる。

 クラウディアはそれを警戒した。



 軽装になったふたりは、正面の出入り口から外へとでる。

 数人の使用人とすれ違ったが、どこに行くのか訊ねられることはなかった。

 逆に、おどおどとしてできるだけふたりと関わらないようにしているようにも感じる。

 見て見ぬふりをしながら内々に通報されているかもしれない。

 そうであっても、ふたりは散歩で貫き通すことを誓う。

「周りは木々、上も高い木々に覆われてほとんど空が見えないわね」

「方向をしっかり認識していないと迷いそうだな」

「だから警備も少ないのかも」

「そういう考え方もあるか。だが、こう木々が行く手を阻むように生い茂っていると、なにかを隠しているようにも思える」

「隠すって?」

「都合の悪い人間を隠すとか? 殺してしまえばいいが、簡単に手を下すことのできない人物。生きる屍のようにして勝手に息絶えるのを待っているとか」

「ダジュール、それって空想話の読み過ぎじゃない?」

「かもしれないが、ここはカーラだ。疑って損はない」

 そう言われると、本当にそうかもと思えてくる不気味さがあった。

 なぜなら、人が通れるような道、人工的に作った道が途中で途絶えてしまうからだ。

 途絶えると引き返すことを繰り返していると、屋敷の周りをグルグル周回しているだけになる。

 何周目になると、いつからそこに居たのか、ロナウドが立っていた。

「そろそろ飽きましたでしょう。ここはなんの変哲もない森ですから。お迎えにあがりました。帝王がすぐ王宮の部屋で休んでもらうようにとのことです。なにやらこちらの手違いでこんな辺鄙な屋敷に案内をしてしまい、申し訳ありません」

 深々と頭を下げてきたが、その表情はわからない。

 手違いだけでこんなことがあるだろうか。

 もしかしたら、自分たちがどんな行動をとるのかを観察していたのかもしれない。

 しかし、ここは相手に油断してもらうしかない。

「そうだったのですか? せっかく屋敷の周りを散策しようと思っていましたのに。よたし、散歩が好きなんです」

 クラウディアが先手を打つ。

「散歩、ですか? 確かにこういう自然の中を歩くのは気分転換にはいいですよね」

「ロナウド殿もそう思われますか! 実は船旅が苦手でして。陸に上がれた喜びをかみしめたく、妃が日課にしている散歩につき合ったのですが、なかなかいいものですね、散歩」

 と、ダジュールも話に乗っかる。

 船旅が苦手なのは本当のことだが、こういう場合、男は見栄を張るものである。

 まさか敵に自分の弱みを見せるなんて、なんて間抜けな王だろうか……と思ったことだろう。

 そう思ってくれればダジュールたちの思うつぼだった。

 どうでもいい散歩話、嘘か本当かわからないうんちく話を繰り返す王と王妃の話に最初は愛想よく相づちをして話に絡んでいたロナウドもさすがに呆れたのか、王宮に向かう車の中では相づちすらしなくなっていた。

 散歩ごときでここまで盛り上がれるレイバラルの王と王妃は危険人物に値しない、むしろ論外であると思ってくれればいい。

 そう思わせるための作戦なのだから。

 その日の晩、少し遅れての夕食に招かれた時にはロナウドの姿はなかった。

 通訳兼世話係と言っていたが、本当は監視役だったのだろう。

 上陸してからの行動や言動などから危険ではないと報告をしたのか、遅い夕食は招いてくれた帝王と、その側近、そしてダジュールとクラウディアという極少人数で行われた。
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